竹内浩三 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
人は、彼のことを神童とよんだ。 小学校の先生のとけない算術の問題を、一年生の彼が即座にといてのけた。先生は自分が白痴になりたくなかったので、彼を神童と言うことにした。 人は、彼を詩人とよんだ。 彼は、行をかえて文章をかくのを好んだからであった。 人は、彼の画を印象派だと言ってほめそやした。 彼は、モデルなしで、それにデッサンの勉強をなんにもせずに、女の画をかいていたからであった。 彼はある娘を愛した。その娘のためなら、自分はどうなってもいいと考えた。 彼はよほどのひま人であったので、そんなことでもしなければ、日がたたなかった。 ところが、みごとにふられた。彼は、ひどく腹を立てて、こんちくしょうめ、一生うらみつづけてやると考え、その娘を不幸にするためなら自分はどうなってもいいと考えた。 しかしながら、やがて、めんどうくさくなってやめた。 すべてが、めんどうくさくなって、彼はなんにもしなくなった。ニヒリストと言う看板をかかげて、まいにち、ひるねにいそしんだ。 その看板さえあれば、公然とひるねができると考えたからであった。 彼の国が、戦争をはじめたので、彼も兵隊になった。 彼の愛国心は、決し
竹内浩三
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