太宰治 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
津輕に疎開中、黒石町にいちど遊びに行つた事があります。黒石民報の中村さんのところへ遊びに行つたのです。中村さんは、縞ズボンをはいてゐました。いつも、はにかんで、赤面し、微笑してゐました。頭のいいひとは、たいてい、こんな表情をしてゐるものです。中村さんは、私に字を書かせました。さうして私の書いてゐるのを傍で見てゐながら、「こなひだ、××さんにも書いてもらつたが、あのひとは、うまかつた」と言ひかけ、ご自身ひとりで、ひどく狼狽してゐました。私の字には、いたく失望なさつたらしいのですが、無理もないんです。 黒石民報社の主筆の福士さんは、黒石の詩人や作家たちを、私に紹介して下さいました。私のワイシヤツの袖口のボタンなどはづれてゐると、福士さんはそれを氣にして、無言で直してくれるのでした。私も安心して默つて福士さんに直してもらひ、まるで私は福士さんにとつて中風のおぢいさんのやうでした。 北山さんといふ詩人は、雪の夜路を私と二人で歩いて、北山さんはその夜、特に新しい軍靴をはいて私に歡迎の心意氣のほどを見せてくれたのですが、新しい軍靴は雪に滑つて、北山さんは、何度も何度もころびました。北山さんは、一升
太宰治
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