太宰治 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ことしの正月は、さんざんでありました。五日すぎから、腰の右方に腫物ができて、粗末にしてゐたら次第にそれが成長し、十五日までは酒を呑んだりして不安の氣持をごまかしてゐましたが、たうとう十六日からは、寢たつきりになつてしまひました。惡寒疼痛、二、三日は、夜もろくに眠れませんでした。手術は、いやなので無二膏といふ膏藥を患部に貼り、それだけでも心細いので、いま流行してゐるらしい、れいの「二筒のズルフオンアミド基」を有する高價の藥品を内服してみました。葡萄状球菌、連鎖状球菌に因る諸疾患にも卓效を奏するといふことだつたので、私は、それを、はじめて二錠服用したときから、既に恢復の一歩を踏み出したやうな爽快を覺えました。私は、賣藥の效能書を、實に信用する愚かな性質を持つて居ります。その、「二箇のズルフオンアミド基」を有する高級化學療法劑に就いては、かねて新聞廣告に依つても承知してゐたのでありますし、いま自ら購ひ求めて、藥品に添附されて在る一枚の效能書をつくづく眺め、熟讀して、腰の腫物を忘却してしまふほど安心したのであります。效能書に依れば、これは、たいした藥なのであります。世界を驚かした大發明なのであ
太宰治
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