田中貢太郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
何時の比のことであったか、高崎の観音山の麓に三人の小供を持った寡婦が住んでいた。それはある歳の暮であった。山の前の親戚の家に餅搗があって、其の手伝いに頼まれたので、小供を留守居にして置いて、朝早くから出かけることになった。 小供と云うのは、十三歳になる女の子と、八歳になる男の子と、それから五歳になる女の子であった。寡婦は家を出る時総領女に云った。 「お土産にお餅を貰って来るから、好く留守番をしといでよ」 「お母さん、自家のことは好いが、彼の山には鬼婆が出ると云いますから、日が暮れたなら、泊って来るが宜しゅうございますよ」と、総領女が云った。 「そうとも、そうとも、鬼婆が恐いから、つい日が暮れたら泊ってくるが、なるだけなら夕方に帰って来るよ」 寡婦はそれから男の子と末の子の頭を撫でながら云った。 「姉さんの云うことを好く聞いてたら、どっさりお餅を貰って来る、好く姉さんの云うことを聞いといでよ」 そして、寡婦は親戚の家へ往って、せっせと餅搗を手伝ったが、思うようにはかどらなかったために、やっと終って帰り準備をしていると日が暮れた。親戚の者は危険いからと云って止めたが、留守のことが心配になる
田中貢太郎
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