田山花袋 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
△ 私が鈍才であるためかも知れないが、何うも本格的な小説が書けない。一時は随分そのために苦労もし、骨も折つて見たのであるが――人一倍いろいろなことをやつて見たいと思つてゐるが、その出来栄の如何といふことよりも、何うもそれでは自分で満足が出来ない。こんなものをいくら書いたつてしやうがないといふやうに思はれて、あとでそれを振返つて見る気になれない。その癖、私のかねての願望はさうではなかつたのである。苟しくも小説家として筆を持つて立つてゐる以上、何んなことでも書けるやうにならなければ本当ではない。いかなる人生でも展開して来やう。いかなる人間でも如実に描き出して見せやう。かう思つてやつて来たのである。ところが、さういふことは非常にむづかしいことで、口でこそ言へるが、いざとなつては、容易に実行出来るものでないといふことが次第に私にわかつて来た。自己と同じ程度に他を見るといふことは、それは容易に出来ることではなかつた。或は全く不可能であると言つても好いかも知れなかつた。従つて本格小説が多くは通俗小説に堕して了ふのも止むを得ないことであると言はなければならない。 本格的であつてそして心境的の手堅さを
田山花袋
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