丹沢明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
川蒸気の発着所、旗はだらりと垂れ 大川は褐色の満水をたたえ 家々は庇をおろし、重り合う家並の彼方 瓦斯タンクは煤煙の雨空に溶ける 大川に架る錆びた鉄橋、常磐線、 貨車が長い車体を引ずってゆく 動かない煙、つながれて朽るボロ船、泛ぶ空俵 橋梁の陰に点々と黒く固まった人糞 それらの上を雨がたたいている。 江北の関門千住大橋、黒い鉄骨は川幅を跨ぎ 自転車、荷車、トラック、労働者、失業者、失業者 空気はぐしょぐしょに煤煙によごれ 人々は腹の中まで灰色にぬれ 眉毛から雨が滴り、眼はもの憂く渇き 江北の雨は胃袋にまで浸み徹る 自転車――失業者、失業者、絶え間なき流れ 声のない喧騒にあわただしく歩き 騒々しい静寂のなかに佇み、息をのみ 大橋を渡ってゆき、大橋を渡って帰ってくる。 (『詩・行動』一九三五年五月号に発表) ●図書カード
丹沢明
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