辻潤 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
芙美子さん―― しばらく留守にしてゐたので返事が遅れてすみません。帰つてから十日余りになるのです。身体はさしてわるいと云ふわけではないが、頭が痲痺してゐるやうなのです 序文は勿論喜んで書きます。しかし別段改まつて書く事もありません。 あなたが先づニセ物の詩人でないと云ふことがなにより先きに感じられるのです。 あなたは詩をからだ全体で書いてゐます。かう云つたらもうそれ以上のことは云はないでもいゝのかもわかりません。 あなたにはかなりな独創性があります。真似をしたところが見へません。それに情熱と明るさがあつて、キビキビしたところがあります。 それ故あなたが特に女性だと云ふやうなことは私の頭には映じて来ないのです。 あなたの詩には少しもこせついたところがなく、女らしいヒガミもなく、貧乏でも溌溂としてゐるところがある。 色々綺麗な言葉を並べてもなんの感じも受けない詩があります。凄い文句や、恐ろしい言葉を連発しても少しも凄くも恐ろしくもない詩もあります。 詩人は生れる――と云ふのはふるい言葉ですが、ほんとうです。すべて芸術はなによりも天分が問題です。努力は勿論、人間の仕事には付きものです。しかし
辻潤
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