土田耕平 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
枕もとの障子に笹の葉のかげがうつりました。 「太郎や、お月さまが出ましたよ。」 とおばあさんが云ひました。太郎さんは顔をあげて、おもしろく模様形をした笹の葉のかげを、しばらく見てゐましたが、 「障子をあけて見ようかね、おばあさん。」 「いゝえ、外は寒いからこのまゝがいゝよ。」 秋の夜は早く更けてこほろぎの声がほそ/″\とひゞいてゐます。太郎さんとおばあさんは、一つ夜具の中に枕をならべて寝て居るのであります。障子にさす月あかりが、ほんのりと白く二人の顔を浮き出すやうに見せてゐます。やがて太郎さんは、 「おばあさん、何か話をして!」 「まあお待ち、今考へてゐるところだよ。」 とおばあさんは障子の方へ向けてゐた目を太郎さんの顔へ移し、 「今夜はちつと恐い話をして聞かせようぞ。」 「恐い話ならなほおもしろいや。」 「よし/\それでは狐に化された話をせう。」 「狐に? 誰が化されたの」 「おばあさんが。」 「おばあさんが化された? ほんたうなの?」 「ほんたうとも、まあお聞き。」 それからおばあさんは、つぎのやうな話をなさいました。 それは太郎さんが生れるずつと前、おばあさんがまだ若い頃のことで
土田耕平
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