土田耕平 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
時男さん――それは私の幼な友だちの名まへです。年は三つ違ひで、私が尋常科三年生の時、時男さんは六年生でありました。だから、お友だちといふよりも、まあ兄さんのやうなものでした。 私は、父と母と三人暮しで、町はづれの借家に住んでゐました。そこから、父は町のお役所へ、毎日通つてゐました。時男さんの家は、私の家から三軒目の隣でした。私が三年生になつたばかりの頃、時男さんは、外からそこへ移つて来たのであります。時男さんの家は、私と同じやうに父母と三人暮しで、そのお母さんといふ人は、いつ見ても大そうきれいな身なりをしてゐました。それは時男さんにとつては、ほんとのお母さんでない、といふことを、時男さんがたが隣へ移つて来た時、私は母から聞きました。 時男さんは、移つて来た次の日から、私と同じ学校へ通ひました。けれども、二人は組が違ひましたし、学校のかへりも私の方がいつも早くありましたので、一緒になることは滅多にありません。朝起きて、庭さきで顔を洗ひながら、時男さんの家の方を見ると、竹箒で外を掃いてゐる時男さんの姿が見えることがあります。そんな時は、互に顔を見合せて、ニツコリします。けれどたゞそれだけの
土田耕平
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