津村信夫 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
信州はお隣りの越後の国にくらべると、あまり雪の多いところではありません。それでゐて、寒いことは、たいへんさむいのです。 雪がすくないといつても、もちろん平地よりはずつとたくさん降りますし、同じ信州でも、飯山などといふ越後にちかいところや、一茶の住んでゐた柏原や、又戸隠地方のやうな山地にゆくと、ずゐぶん、どつさり積るのです。 善光寺平の雪は、精々一尺くらゐ積れば多い方ですが、そのかはり、一度積つた雪はもう中々とけないのです。さうして、その上に、そのうへにと新らしい雪が降るのです。道の上などは、堅くかたく、まるで氷でも張つたやうになるのです。これを根雪といひますよ。 堅い雪は又時々悪さをするものです。この間も、私の知り合ひのある老婆が、夕方買物に出かけて、道をあるいてゐると、この氷のやうな雪の上で、つい足をすべらせてしまひました。さうして老婆は腰のあたりを、ひどくうつたのです。 「あゝ、ほんとに魂消えやした、雪も、どうして馬鹿にならない」 この勝気なおばあさんは、さういつて、こぼしてゐましたが、まる一月くらゐは動けなかつたといふことです。 年寄だけではありません、若いものでも時々しくじるこ
津村信夫
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