十返肇 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
周知のように、松本清張・有馬頼義・菊村到・柴田錬三郎ら、いわゆる純文学系の作家が、推理小説に筆をそめだした結果、これまでの専門作家による探偵小説に、ひとつの照明が、たしかに投げられたのであった。探偵小説という、私などの好きな昔なつかしい名称がすたれ、一般に推理小説という言葉が使用されはじめたのが、この現象と時を同じくしているのは、決して偶然ではなかった。いわば、これらの作家によって一言でいうならば、探偵小説のリアリズム化が行われたのであった。 それは、まずあの「私は今なお二十年前に起った怪奇とも不思議とも形容しがたい、あの戦慄すべき事件を思いだすと……」式なハッタリ・プロローグの廃止から始まった。こういう言葉は、冒頭いきなり読者を、作品の世界へ誘導するために書かれていたのだが、今日の読者は、かえって、こういう書きだしには、「またか」という反撥こそ感じても、もはや魅力をおぼえなくなってきている。これは、あきらかに前時代の米英探偵小説の古典からの模倣であって、まったくの通俗小説ならともかく、多少とも知的であろうとする小説を求める読者には、もはや往年の魔力をもっていないのである。 つぎに、こ
十返肇
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