徳田秋声 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
明治二十四、五年頃ではなかつたかと思ふが、私が桐生悠々君と共に上京して、紅葉山人の横寺町の家を訪れた時には、鏡花君は既に其の二畳の玄関にゐた。私達と同郷で、特に私とは小学校が一つなのだが、クラスが違つたせいか、其頃には互ひに相識る機会もなく、私達の通つてゐた石川県専門学校が高等中学になる時、一般の入学試験があり、私達も其の試験を受けたが、通路を隔て私と同列の側にゐた桜色の丸い顔をして近眼鏡をした青年がありリーデイングの時、いとも滑かなリイダの読み方をしたのを今でも覚えてゐるが、それ以前に通学の途中、ちよつと其の姿を見たことがあり、田舎には珍らしい、ちよつと印象の深い美しさであつた。君は広坂通のミツシヨンスクールへ通つてをり、私は専門学校へ通つてゐたのであつた。高等中学の試験では鏡花君は他の学科で落ちたものらしく、入つて来なかつたが、余程経つてから、私も大分文学かぶれのしてゐた頃だつたが、棚田といふ大通りの本屋で、新しい小説類の外に漢書を一冊借りて来ては読んでゐた頃、鏡花君も其の主人とは懇意らしく、一度店頭にゐる君を見たことがあり、それが泉といふ男だと主人が言ふのであつた。事によると、其
徳田秋声
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