豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ある港町の、港と停車場との間の、にぎやかな街路に、市郎の店はありました。店といっても街路の上の屋台の夜店で、その夜店のほんのかたはしなのです。 そのへんは、船や汽車の旅人がたくさんゆききするところで、また、町の人がたくさんであるくところです。それで、夜になると、いろいろな夜店がたちならびました。 市郎の夜店は、市郎のお母さんが出していたものです。いろいろな絵葉書や絵本や玩具などを売っていました。ところが、お母さんが病気になって、夜店に出られなくなりましたので、夜店仲間の、あるおかみさんに、一時そこを預ってもらっているのでした。市郎のお父さんはもう亡くなっていました。 その夜店のかたはしに、市郎は自分の貝殻を並べたがりました。 「お母さんの店だから、僕が自分の品物を出しといて、監督に行くんだよ。」と市郎はいいました。 お母さんは弱々しい咳をしながら、頬で笑い、眼でにらんで、いいました。 「生意気なことをいうもんじゃありません。」 それでも、市郎がしきりに夜店に出たがりますので、お母さんは、店を預ってるおかみさんと相談して、土曜日と日曜日との晩だけなら――とゆるしてくれました。 市郎は額を
豊島与志雄
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