豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
神棚 豊島与志雄 霙交りの雨が、ぽつりぽつりと落ちてくる気配だった。俺はふと足を止めて、無関心な顔付で、空を仰いでみた。薄ぼんやりした灰色の低い空から、冷い粒が二つ三つ、頬や鼻のあたりへじかに落ちかかってきて、その感じが、背筋を通って足先まで流れた。 「愈々やってきたな。」 ふふんという気持で俺は呟いたが、その気持がはたと行きづまって、一寸自分でも面喰った。――朝から金の才覚に出かけたが、或る所では断られ、或る所では主人が不在で、初めから大したものでもなかった意気込みまで、何処へか取失ってしまい、その上昼食も食いはぐしてしまってぼんやり歩いてるうちに、いつしか夕方になったのだった。蟇口は相変らず空っぽのままだし、胃袋には一片の食物も残っていないし、外套もつけていない吹き曝しの身に、雪になりそうな雨まで落ちかかってきた。だがそんなことは、まあいいや、明日という日がないじゃなし! と空嘯いてみたものの、さてこれから、どうしよう……ということより寧ろ、何処へ行こうということが、ぴたりと気持を遮ってしまった。このままぼんやり歩き続けて、銘仙の一張羅を雨に濡らしてもつまらないし、それかって一寸訪
豊島与志雄
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