豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ここに収めた作品はみな、近代説話として書いたものばかりである。近代説話というのは、私が勝手に造った名前で、或る一種の創作方法で書かれたもののことを指す。 終戦後、物が自由に書けるようになってから、私はおもに小説を書いた。そして作者としての私の関心は、おのずから直接現在の人間生活に向けられた。――太平洋戦争の結果は、わが国の社会状態に大変革の一線を引いた。この線の少くとも一端にでも触れた人々の在り方や生き方は、どのようなものであろうか。また、この線に跨ってる人間性の赤裸な現われ方は、どのようなものであろうか。そういうことを私は探求したかった。 然るに、斯かる探求の成果を、小説の形式で表現するに当って、私は或るもどかしさを感じた。元来、一篇の小説に於て、殊に短篇小説に於て、作者が真に言いたいこと、つまり作品の中核は、詮じつめれば案外に小さいものであって、大部分は主としてそれへの肉付けに過ぎない。ところが、前述のような作品にあっては、この中核がわりに大きく、それと均衡のとれた肉付けをするには、ずいぶん多くの枚数を必要とする。而も作者は、中核の表現に余りに多くの熱意を持つ。そういうところから、
豊島与志雄
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