豊島与志雄
豊島与志雄 · 日本語
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豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
揚子江の岸の、或る港町に、張という旧家がありました。この旧家に、朱文という男が仕えていました。 伝えるところに依りますと、或る年の初夏の頃、この張家の屋敷の一隅にある大きな楠をじっと眺めて、半日も佇んでいる、背の高い男がありました。それを、張家の主人の一滄が見咎めて、何をしているのかと尋ねました。 「楠を見ているのです。」と背の高い男は答えました。 「それは分っているが、なぜそんなに見ているのか。」 「珍らしい大きな木だから、見ているのです。」 実際、それはみごとな大木でした。山地の方へ行けば、そのような木はいくらでもありますが、この辺の平野には至って珍らしいもので、根本は四抱えも五抱えもあるほどにまるくふくらみ、それから少し細って、すくすくと幹が伸び、上にこんもりと枝葉の茂みをなしています。張家の自慢の木でありました。それを誉められて、張一滄が大きな鼻をうごめかしていますと、背の高い男はほーっと溜息をついていいました。 「珍らしい大きな木だが、可哀そうなことをしましたね。」 「ほう、可哀そうなこととは、どういうことかね。」 「あんなに、蓑虫がたくさんついています。」 「ああ、あの虫に
豊島与志雄
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