豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
猫性 豊島与志雄 誰にも逢いたくない、少しも口が利きたくない、そしてただ一人でじっとしていたい。そういう気持の時が屡々ある。これは意気阻喪の時ではなく、情意沈潜の時である。 私は純白か漆黒かの尾の長い猫なら、見当り次第幾匹でも飼いたいと思っている。それも、室内にとじこめられた単に愛玩具の外国産のものでなく、自由に戸外をもかけ廻る野性的な日本種がいい。尾の短いのは人工的でいけなく、尾の長い自然的なのに限る。それから一般に動物は、単毛色のものは雑毛色のものより虚弱で、種々の点で抵抗力が弱いのであるが、それでも純白か漆黒かというのは何故であるかとなると……それは茲では云わない。 ところで、何故に猫か。猫は飼養動物のうちで最も人間に近い生活をしている。屋内に人間と同居し、同じ食物をたべ、同じ寝具に眠る。にも拘らず、犬のような奴隷根性がない。用があり、気が向けば、喉をならしてすり寄ってくるが、用がなく、気が向かなければ、呼んでも返事をせず、すましてそっぽを向いている。猫は人の顔色を読むと云われているが、往々、最もよく人の顔色を無視する。そして庭の隅や、縁側の片端や、机上などに、ただじっと蹲ってい
豊島与志雄
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