豊島与志雄
豊島与志雄 · 日本語
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豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
仁木三十郎が間借りしていた家は、空襲中に焼け残った一群の住宅地の出外れにありました。それは小さな平家建てでしたが、庭がわりに広く、梅や桜や楓や檜葉などが雑然と植え込まれており、その庭続きにすぐ、焼け野原が展開していました。焼け野原はもう、処々に雑草の茂みを作りながら、小さく区切られた耕作地となり、麦や野菜類が生長していました。そして畑地と庭との間には、低い四つ目垣が拵えてあるきりでした。 その庭の片隅に、ばかに大きな水甕が一つ伏さっていました。東京では殆んど見かけられない大きなもので、何のために其処へ据えられたのか分りませんでした。借家主の平井夫婦は、戦争中、先住者がいち早く地方へ逃げ出したあとに、移転してきたのですが、その時から水甕はそこにあったのだそうです。恐らくずっと以前から、昔から、そこにあったのでしょう。その水甕は、空襲前から、防火用水を一杯たたえていましたが、終戦後、いつのまにか、逆さに伏せられてしまいました。誰がそんなことをしたのか分らず、そのまま放置されていました。平井夫婦もそれを殆んど眼にとめていませんでした。 この家の一室に住むことになった仁木三十郎は、戦争中、大陸
豊島与志雄
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