豊島与志雄
豊島与志雄 · 日本語
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豊島与志雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ある田舎に、阮という豪族の一家がありました。 阮家の一人息子の阮東は、志を立てて、都に出ました。そして学問をしながら、長官の周家に、書生として暮すことになりました。 その翌年の春さき、阮東は周家の令嬢素英と親しくなり、いつしか愛を語らう仲になりました。けれども、それも一ヶ月ばかりの間で、素英から急に疎んぜられるようになりました。 阮東は、頭髪を乱し、悲しみに胸をふくらまして、何事も手につきませんでした。そしてよく裏庭へ出てゆきました。その片隅に、竹藪があり、竹藪のそばに四五本の李の木があって、白い花が咲いていました。阮東はその花の下で、熱い涙を流して泣きました。 夜通し一睡も出来なかった日の、朝早く、阮東はまた李の花の下に来て、泣き悲しんでいました。 すると、爽かな細い歌声が聞え、やがて、空色の化粧着をつけた素英の姿が、まるで幻のように現われてきました。 阮東ははっとして、息がつまり、血の循りがとまり、ただ眼を大きく見張りました。そして暫く見ない彼女の姿を、じっと見つめていましたが、次には、かっと逆上して、そこに走り出で、彼女の足もとに跪きました。 「ああ、お嬢さん、よく来て下さいまし
豊島与志雄
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