永井荷風 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
嗤ふなかれ怪しむなかれ。 この集をひらきみる人。 この集に載せたる詩篇。 思出の言葉なきものあらざることを。 物一たび、去ればかへることなし。 かへらぬものはなつかしからずや。 あかるき今日の昼とても 暮れなばたちまちむかしなり。 休まざる時計のひゞきは 忘るゝな。思出でよと。 絶間なくわれにぞ告る。 思出は命の絲につながれし 珠のくさりに似たらずや。 命の糸のきるゝ時 まろびて珠は砕くべし。 愛でよ惜しめよ。思出を。 玉手箱のふたあけて 珠のかざりを取出す乙女の如くに マルグリツトの如くに。
永井荷風
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