永崎貢 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
組合旗を折る 永崎貢 職場の汚れた窓硝子越しに、その時、作業中の従業員達は見たのだ。組合旗を先頭に馘首された五十幾名が列を組んで古ぼけた工場の門をくぐって来るのを。 「おい、来たぜ来たぜ。」 従業員達は操作の手を止めて一斉に眼を窓の外に移した。五日前までは同じ職場で肩を並べて働いていた仲間が、今日は失業者になって解雇手当を受取りに来ている! 組立、熔接、仕上と、三つの職場の棟に囲まれた中央の空地に来ると、一同は立止った。列の先頭にいた組合支部長と二人の幹部が被馘首者を残して重役室の方に出掛けて行った。 雪空であった。一月の朝の寒風に組合旗がはためいた。閉め切った窓の中へは外の響や物声は聞えて来なかったけれど、従業員達は空地に眼を血走らせて寒々と待ちあぐんでいる失業者の気持ちを鋭く感じた。胸を動悸打たせ拳を固めて、窓から眼を離そうとしなかった。 「手を休めないで。仕事を続けて下きい。」 監督がうるさく言って廻る。 このAサッシュ工場は一年前には従業員が二百五十人もいた。そして当時から全国同盟関東金属労働組合の締付け工場だった。それが僅かこの一ヵ年の間に、三十人、五十人と馘首されて行った。
永崎貢
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