長塚節 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
○一日を隔てた三十日に二回目の訪問をした。先生の姿勢はいつもの通りであつた。その時自分は國元から持つて行つた丹波栗の二升ばかりを出すと、それはどうして保存して置くのかといふやうな問があつた。砂と交へて土中に埋めて置くといふやうなことを話すと、ウムと聞き取れない程にいはれて暫くは默して居られた。自分は丹波栗を先生に進めたといふことで咏んだ二三首の歌を見せ先生は唯々じいつと見詰めて居られたが、その内の一つをこれ丈は別に惡いこともないが、あとのはもつと尻が締らなくてはいかないのですと言はれた。自分は嬉しいやうな恐ろしいやうな氣がして聽いて居つた。夫等の歌といふものは素より自分でも厭惡すべきものであつたのだから、先生に在つては必ず始末に困つた位には思つたのであつたらうが、別に小言もいはれなかつたのである。先生のは後になつても其通りで有つたが、自分等の作つたものを見て貰ふのに其作品が非常に拙劣で隨分叱責されるやうな場合でも、最初はこの時のやうに唯じつと見て居られてそれから極柔かに叱られるのであつた。比較的上作であつた時は直ちに面白いといふ一言で終るのである。拙劣な作であると、物を言はれる迄には必
長塚節
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