中野鈴子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
幸助けさ 手紙をうけとったやっぱり達者でいてくれたかわたしは思わず手紙をおしいただいただもしやこの暑さでやられてでもいるのではないかと心配していたに牢やの中はどんなに暑いじゃろうねいそここそ地獄じゃもの夏は出来るだけ暑いように冬はなるべく寒いように仕掛けてあるんじゃろうさかいねコンクリで囲うた窓一つない箱みたいな建て物じゃと言うでないかようく 障りなくいてくれた 苦労ばかりかけてきたお母さんにまたこのような心配させて申し訳もない不孝者ととがめないでおくれ今日の手紙にもこんなことを書いてあるが 幸助それは初めのうちはそうと思っただ五年前に年寄りの母親をひとりのこしてポーイと江戸さ行ったきり金を送るでなし一本のたよりも呉れずそのあげくに牢やへたたき込まれたことがわかった時にゃ不孝も不孝牢やへたたきこまれると言うは何ということだと思いうらんだり 泣いたりしただ在所の者も白い眼で見るし村さ はなれて他国へ夜逃げでもしようかと考えただ本当にそう思っただ お前はズッと東京でその労働組合というところにいたんだかお前はその労働組合で何千人何万人の働いても働いても貧乏している人のために命も牢やも物ともし
中野鈴子
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