中原中也 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
機敏な晩熟児といふべき此の男が、現に存するのだから僕は機敏な晩熟児が如何にして存るかその様を語らうと思ふ。 この男は意識的なのです。そして意識はどつちみち人を悲しませるものです。然るにその悲しみ方に色々ある。そしてこの男について言つてみれば、この男はその悲しむ段となつてはまるで無意識家と同しなのです。それは私にこの男の意志が間断しないことを知らせます。 けれども、悲しむ段となつてだけ無意識なんてことがありませうか? それは考へられません。それで私が今初めに此の男を意識的だといつたのをなんとか改訂しなければなりません。然り、この男は無意識家なのです。然るに用心深すぎるのです。卑怯なのです。然るにこの男が此の頃大変卑怯ではない人の分る事が分るのはどうしたことでせう?――この男は甞て心的活動の出発点に際し、純粋に自己自身の即ち魂の興味よりもヴァニティの方を一足先に出したのです。そして此の頃大変魂の大事なことが分るといふのには、彼の自己自身の興味に沈溺する善良性は小さくなかつたのです。然るにヴァニティは一歩先に出たのだから、つまりどつちも大きいがヴァニティの方が一歩より大きいのです。――といふ
中原中也
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