中村地平 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
宮崎は人口七万ばかりの小さな町で、附近に官幣大社宮崎神宮や、熱帯植物の青島があること以外、殆んど世間に知られていない。しかし、そのくせ一度脚を運んだ人は、必ず言いあわせたように、 「いい町ですね、静かで、のんびりしていて……」 言い残してゆくのが普通である。 先頃、僕たちがその土地を訪ねた時は、宮崎を根城にして日向一円を巡遊したのであるが、その町に帰ると、みんな母親の胸に帰ったような、安らかな思いに落ちつくのがいつものことであった。みんな故里に帰ったような気がすると言い、中でも上泉秀信さんなどはそういう町を故里にもっている僕が羨ましいと繰り返していた。 いったいどこの土地でも勝れた景観に欠くことのできないのは水の要素であるが、宮崎の町が訪ねる人の心を、そのように安らかな境地に誘いこむのも、一つには大淀川の流れが町の中央を貫いているからである。 大淀川は霧島山の山麓に源を発し黄濁した体で日向の平原をうねりくねり、末は太平洋に注いでいる三十余里もある長い大きな川である。 僕の郷家はその河ぷちに在り、幼い頃僕はその河で泳いだり、ダクマ蝦を釣ったり、なつかしい記憶をもっているが、先頃の旅行では
中村地平
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