林不忘 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
さっきの雷鳴で、雨は、カラッと霽れた。 往来の水たまりに、星がうつっている。いつもなら、爪紅さした品川女郎衆の、素あしなまめかしいよい闇だけれど。 今宵は。 問屋場の油障子に、ぱっとあかるく灯がはえて、右往左往する人かげ。ものものしい宿場役人の提灯がズラリとならび、 「よしっ! ただの場合ではない。いいかげんに通してやるゆえ、行けっ!」 「おいコラア! その振分はあらためんでもよい。さっさと失せろっ」 荷物あらための出役と、上り下りの旅人のむれが、黒い影にもつれさせて、わいわいいう騒ぎだ。 ひがしはこの品川の本宿と、西は、琵琶湖畔の草津と、東海道の両端で、のぼり下りの荷を目方にかけて、きびしく調べたものだが、今夜は、それどころではないらしい。 ろくに見もせずに、どんどん通している。 大山もうでの講中が、逃げるようにとおりすぎて行ったあとは、まださほど夜ふけでもないのに、人通りはパッタリとだえて、なんとなく、つねとは違ったけしきだ。 それもそのはず。 八ツ山下の本陣、鶴岡市郎右衛門方のおもてには、抱き榊の定紋うった高張提灯を立てつらね、玄関正面のところに槍をかけて、入口には番所ができ、そ

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