林芙美子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
朝夕 林芙美子 わかればなしが持ちあがるのも、すべてはゆきなりの事だと、芯から声をあげて、嘉吉もなか子もあはあはあはと笑ひあつたのだが、嘉吉の心の中には、ゆきなりとは云ひぢよう、ゆきなりの事だと云ひきれないものがあつたし、なか子の心のうちには、これからひとり者になつてゆく淋しさを愉しんでゐるふうな、そんな吻つとしたところがあつた。で、ふたりが、いまさらゝしく声をたてゝ笑ひあふのも、これでおしまひだねと云つた風に、嘉吉は久須を引き寄せて、茶を淹れながら、ま、お前は気の軽い女だから俺ほどには思ふまいが、たよりだけは屡々くれるやうにと、二つの湯飲茶碗の糸底を、猫板の上にかつん、かつんと音をさせて並べた。 「まだ、あんたはそんなことを云つてゐるのね。わかれてしまふつて云つたところで、お互ひ、よくなつてゆけば、またかうして一緒になれるンですよ。あんまり理のこまかいこと云ふもンぢやないわよ、悲しくなるぢやないの‥‥」 「ふゝん、悲しくなるか、だが、わかればなしを持ちだしたのはあんたぢやないか」 なか子は黙つてゐた。切角気持ちよく、さつきはあんなにあはあは笑へたのに一寸拍子が逆になると、嘉吉の方が弱
林芙美子
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