林芙美子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「リラ」の女達 林芙美子 1 もう、いゝかげん退屈しきつて、女達は雀をどりの唄をうたつてゐた。――その雀をどりの唄は、じいつと聞いてゐると、女達自身の心境を語つてゐるやうで、外の雪のけはいと一緒に、何か妙に譚めいて聞えた。 料理店リラの前の赤い自動電話の屋根の上には、もう松茸のやうに雪が深くかぶさつて淡い箱の中の光りは、一寸遠くから見ると古風な洋灯のやうにも見える。 まだ暮れたばかりなのに、綿雪が深々と降りこめて、夜更けのやうに静かだ。リラの鎧戸風な窓からは、さつきの雀をどりの唄が、まだしんみりと流れて聞えて来る。 洋灯のやうな自動電話の中には、紺の玉羅紗のオーヴァを着た中年の男が、時々疳性に耳を掻きながらさつきから、何か受話機に話しかけてゐた――時々チラチラとリラの入口を眺めながら、リラの様子を窺つてゐる風でもある。 息でくもつた電話室の外の街路は、頭を白く染めた電車や自動車が、ひつきりなしに走つて行く。「えゝツ? だから、一寸でいゝんだから出ていらつしやい、僕が行つても、いゝんだけれど、岡田なンかにみつかると厭だから‥‥判つたア?」電話の男がこんな風な事を云つて、ガチヤリと受話機を
林芙美子
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