林芙美子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
恋愛の微醺 林芙美子 恋愛と云うものは、この空気のなかにどんな波動で飛んでいるのか知らないけれども、男が女がこの波動にぶちあたると、花が肥料を貰ったように生々として来る。幼ない頃の恋愛は、まだ根が小さく青いので、心残りな、食べかけの皿をとってゆかれたような切ない恋愛の記憶を残すものだ。老けた女のひとに出逢うと、娘の頃にせめていまのようなこころがあったらどんなによかったでしょうと云う。だから、心残りのないように。深尾さんの詩に、むさぼりて 吸へどもかなし 苦さのみ 舌にのこりて 吸へどもかなし、ばらの花びら こんなのがある。どんな新らしいと云う形式の恋愛でも、吸へどもかなし 苦さのみで、結局、魂の上に跡をとどめるものは苦さのみじゃないだろうか。私は新らしいと云う恋愛の道を知らない。新らしいと云うのは内容のかわった恋愛と云う意味ではなく、整理のついた恋愛を云うのかも知れないけれども、すぐ泥にまみれたかたちになってしまう。――懶惰で無気力な恋愛がある。仕事の峠に立った、中年のひとたちの恋愛はおおかたこれだ。 この間も、ある女友達がやって来て、あなたはいま恋愛をしていないのかと訊く。恋愛もいい
林芙美子
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