原口統三 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ところが今日、僕はふと「寒い」と思ったのだ。 僕はきっと夢を見て来たのに違いない。 ―Etudes ― 一明君 「自己の思想を表現してみることは、所詮弁解にすぎない」 右の最後の反省と共に、僕はこの小さな三つのノートを、君の手に渡そうと思う。 長い間筆を捨てて来た僕が臨終の直前まで来て、まだ一度も試みたことのないこうした感想録を作らずにおれなかったのは、やはり弱気の蛆が湧いたためだろう。いつも罵倒していた「老耄れの繰り言」を、僕もまた実行したわけだ。九月の二十四日から今日まで、僕は寸暇も休まずに書き殴って来た。僕の心にはまだ書きつづけたい気があるし、これを整理して壮麗な文体で一つの作品を残したいとも思った。けれども、改むるに憚るなかれ。僕は今その意図を棄てねばならない。 君に渡すとすれば、もっと綺麗に、粗雑な文体も直した上で手放したいのだが、僕にはもうその気力がないのだ。我慢して受けてくれたまえ。 君はおぼえているだろうが、僕はよくドイツ人の悪口を言うときにこう語ったものだった。「ゲルマン人の思考の仕方は、城廓を築いてその中に安住する」このエチュードを記した後で、僕は自分の書き方に対し
原口統三
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