久生十蘭
久生十蘭 · 日本語
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久生十蘭 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
花婿 二十四日の亀戸天神様のお祭の夜からふりだした雨が、三十一日になっても降りやまない。 神田佐久間町の焙烙長屋のドンづまり。古井戸と長屋雪隠をまむかいにひかえ、雨水が溝を谷川のような音をたてて流れる。風流といえば風流。 火鉢でもほしいような薄ら寒い七ツさがり。火の気のない六畳で裸の脛をだきながらアコ長ととど助がぼんやり雨脚を眺めているところへ、油障子を引きあけて入って来たのが、北町奉行所のお手付、顎十郎のおかげでいまはいい顔になっている神田の御用聞、ひょろりの松五郎。 二升入りの大きな角樽をさげニヤニヤ笑いをしながらあがって来て、 「へへへ、案の定ひどくシケていますね。たぶん、こんなこったろうと思ってこうしてお見舞いにあがりました。今朝『宇多川』に着いたばかりの常陸の地廻り新酒、霜腹よけに一杯やって元気をつけてください。……こうしておいて、またいつか智慧を借りようという欲得づく」 いいほどに飲んでいるところへ『神田川』から鰻の岡持がはいる。すっかり元気になって三人鼎になって世間話をしていたが、そのうちにひょろ松は、なにか思い出したように膝を打って、 「阿古十郎さんもとど助さんも、そと
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