久生十蘭 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
昆虫図 久生十蘭 伴団六は、青木と同じく、大して才能のなさそうな貧乏画かきで、地続きの古ぼけたアトリエに、年増くさい女と二人で住んでいた。 青木がその裏へ越して以来の、極く最近のつきあいで、もと薬剤師だったというほか、くわしいことは一切知らなかった。 職人か寄席芸人かといったように髪を角刈にし、額を叩いたり眼を剥いて見せたり、ひとを小馬鹿にした、どうにも手に負えないようなところがあって、これが、最初、青木の興味をひいたのである。 細君のほうは、ひどく面長な、明治時代の女官のような時代おくれな顔をした、日蔭の花のような陰気くさい女で、蒼ざめたこめかみに紅梅色の頭痛膏を貼り、しょっちゅう額をおさえてうつ向いていた。吉原にいたことがあるという噂だった。 どういういきさつがあるのか、思い切って素っ気ない夫婦で、ときどき、夜半ごろになって、すさまじい団六の怒号がきこえてくるようなこともあったが、青木の前では、互いに猫撫で声でものを言い合っていた。 十一月のはじめ、青木は東北の旅から帰り、その足で団六のアトリエへ訪ねて行くと、団六はめずらしくせっせと仕事をしていた。 日本間のほうを見ると、いつもそ
久生十蘭
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