久生十蘭
久生十蘭 · 日本語
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久生十蘭 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
十六日の朝景色 薄い靄の中に、応挙風の朱盆のような旭がのぼり、いかにもお正月らしいのどかな朝ぼらけ。 出尻伝兵衛、またの名を「チャリ敵」の伝兵衛ともいう、神田鍋町の御用聞。 正月の十六日は、俗にいう閻魔の斎日。 商売柄、閻魔参りなどに行く義理はない。 谷中の方にチト急な用があって、この朝がけ、出尻をにょこにょこ動かしながら、上野山内の五重の塔の下までやってくると、どこからともなく、 「……おい、伝兵衛、伝兵衛」 チャリ敵の伝兵衛、大して度胸もない癖に、すぐ向ッ腹をたてる性質だから、たちまち河豚提灯なりに面を膨らし、 「けッ、なにが伝兵衛、伝兵衛だ。大束な呼び方をしやアがって。……馬鹿にするねえ」 亭々たる並松の梢に淡雪の色。 ぐるりと見廻したが、さっぱりと掃き清められた御山内には、人影らしいものもない。 「な、なんだい。……たしかに、伝兵衛、伝兵衛と聞えたようだったが……テヘ、空耳か」 ぶつくさ言いながら歩き出そうとすると、また、どこからともなく、 「伝兵衛、伝兵衛……」 あわてて見廻す。やはり、誰もいない。 伝兵衛、タジタジとなって、 「おい、止そうよ。どうしたというんだい、こりゃア
久生十蘭
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