久生十蘭 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
進駐軍、厚木キャンプの近くにある、聖ジョセフ学院中学部の初年級の担任教諭が、受持の生徒のことで、地区の警察署から呼出しを受けた。 年配の司法主任が、知的な顔をした婦人警官を連れて調室に入ってきた。 「お呼びたてして、恐縮でした」と軽く会釈すると、事務机を挟んで教諭と向きあう椅子に掛けた。尾花が白い穂波をあげて揺れているのが、横手の窓から見えた。 「こちらは少年相談所の補導さん……この警察は開店早々で、少年係がおりません。臨時に応援にきてもらったので、事件を大きくしようというのではありませんから、ご心配のないように」 「司法主任のおっしゃるとおり、私どもは、たいした事件だと思っておりませんの。廃棄した掩体壕のなかに、生憎と進駐軍の器材が入っていた関係で、やかましいことをいっておりますが、器材といっても、旧海軍兵舎の廃木なんですから、ちょっと火をいじったぐらいのことで、放火のどうのと騒ぐのはおかしいですわ……ですから、理由はなんだっていいので、あそこでギャングの真似をしていたとか、キャンプ・ファイヤをやろうと思ったとか、書類の上で、筋が通っていればすむことなんですが、石みたいに黙りこんでい
久生十蘭
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