平林初之輔
平林初之輔 · 日本語
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平林初之輔 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
こんなことが信じられるだろうか? でもじっさい妾は自分の眼で見たのだ。あの人が、世界でたった一人の妾の人だと信じきっていたあの人が、全く世間並みの、やくざな、汚らわしい人間であったなんて。 今朝の十時に、妾はあの人の書斎へはいって、書棚からミロッセの『コンフェッション』を探していた。すると、何という偶然の一致だろう。ちょうど、その書物をぬき出すとたんに、オパール色の一通の封書が妾の脚元へ落ちてきた。もちろん封は切ってあった。妾は何の気もなしに、それを拾いあげて全く偶然に、中味をひき出して見た。というのは妾はこれまでついぞ夫の手紙を無断でよんだことはなかったからだ。 封筒と同じ色のレターペーパーに、紫のインキで次のように書いてあった。 あなたは洪水のようにお手紙を下さるのね。きっと貴方は朝から晩まで妾の手紙ばかり書いていらっしゃるのでしょう。妾、ただ読むだけでへとへとになっちゃうのよ。ポストをあけてみると、きっと貴方のお手紙がはいっているんですもの。でも妾、貴方のお手紙をよむのはそれはそれは愉快だわ、貴方のお手紙はいろいろなことを考えさせるんですもの。どんな書物を読むよりもためになるわ。
平林初之輔
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