平山千代子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ハナとタマシヒ 平山千代子 ハナ いつごろだつたのか、誰であつたか、多分、渡辺千代子さんだつたと思ふが、私をそつと手招きして、校庭のすみへつれて行つた。そして小さな声で、 「あのね、ハナッて、何んだか知つてる?」 「ハナ? ハナッて……この鼻?」と私は鼻を指先で叩いてみせた。 「うん、出てくる鼻汁よ」 「うゝうん、知らない」と首をふると、 「あのね、ハナはノーミソの腐つたものなんですつてさ……」千代ちやんは大げさに、まるくて茶色いその眼を、一層まるくしてさう教へてくれた。 「ふうん? さうお?」と私は云ふ。 真面目になつて教へる方も教へる方だが、「ふうん」と感心してきいてる者もきいてる者だ。が、だから面白い。ノーミソッて云ふのは、頭のこのオデコから上に這入つてゐる、大事なものだとは私は知つてゐた。してみれば鼻とは甚だ近いんだから、ほんとなんだらうとも思へる。 きつと、ノーミソは、あんまり沢山のことを覚えるんで満員になるんだな。だから古いのがハナになつて出ちやつて、後から新しいノーミソが代るんだらう。忘れるッてのはノーミソが腐つちやふんだな。ははあ、そして外へ行つちやふから思ひ出せないの
平山千代子
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