古川緑波 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
五月上旬から、六月へかけて、梅田コマスタジアムで「道修町」出演のため、大阪に滞在すること、約一ヶ月。 大阪での僕のたのしみの一つは、おどり(生海老)を食うことである。酔後、冷たいすしの舌ざわりは、何とも言えない、殊に、おどりは、快適で、明朝の快便をさえ思わせるものがある。だから、大阪へ行ったら、おどりを、と、たのしみにしているわけ。 東京では、すし屋へ行っても、おどりを食わせる店は少いし、あっても活きが悪くて、大阪の如く、尻ッ尾が、ピチッピチッと動いたりしない。動いても、スローモーションで、グニャッグニャッと動く。 ところが、大阪のすし屋は、何うも生海老が早く売切れる。われわれ、夜の仕事が終って行くと、もう売切れです、と断わられる。 その断わり方が妙に生意気にきこえる。「相済みませんねえ、今夜はあいにく売切れましたんで――」というような、愛想のいい言葉は殆んど使わずに、どの店でも、きっと、おどりが食いたきゃあ、もっと早く来りゃあいいんだ、今頃来やがって、何を言っているんだというような感じで、「おまへんわ」位のことを、アッサリ言う。 「じゃあ、何時頃来りゃあいいんだ?」 ときくと、七八時
古川緑波
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