堀辰雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
室生さんのこの頃のお仕事ぶりは、私などのやうなずつと昔からの側近者にとつても、本當に驚嘆の他はありませぬ。立派なお仕事が次から次へとお出來になる、――その何と云ひますか、製作力の旺盛なことは、それもただはげしいと云ふばかりでなく、實によくコントロオルのとれてゐることは、作家として實にいい生活をなさつていらつしやるからだと思ひます。――私などがふだん接してそのお仕事ぶりを見てゐますと、實に室生さんは「仕事の雰圍氣」といふものを始終しつかりと掴んでいらしつて、一日とて油斷をしてそれを手離すやうなことをなさらない。若しインスピレエションなんといふものがあるとしましても、それは室生さんにとつては、決して他の人達が考へるやうに遠くから來るものではなく、いつも室生さんの手の屆くところにゐるやうに、平生から飼ひ馴らされてゐるやうな感があります。さうして室生さんはいつもさういふ「仕事の雰圍氣」といふものを大事にされてゐて、少しも無理強ひをなさらない、――如何にもすうつとその中にはひつて行つて、其處で一人で何か見えないものとはげしい格鬪をなされた後、又すうつとその中から何事もなかつたやうに出ていらつしや
堀辰雄
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