堀辰雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
あなたの、お父さんの雜誌に書けといはれた隨筆でも書けたら書かうと思つて、かうやつてけふも森の中へ、例の大きな drawing-book をかかへて、來てゐるのです。僕の住んでゐる屋根裏部屋なんぞにくすぶつてゐるより、森の中でもぶらぶらさ迷つてゐるときの方が、ずつといい考への浮ぶのは當然。しかし僕も頭が惡くなつたせゐか、せつかくいい考へが浮んでも、そばから物忘れをしてしまふので、(ひとつにはそんな ephemeral なものしか考へられないからかも知れないのですが、)この頃はかうやつて繪描きのやうな眞似をして、その場ですぐそれを書きとめて置くのです。 けふは淺間登山道を僕は眞直に登つてきた。――實は今朝、まだ霧のふかいうちに、僕は半分睡氣ざましに、この山道の入口のところまで歩きに來たら、丁度そのとき霧のなかに大きな牝牛を一匹放したまま跡に歩かせながら、默々と山に登つて行つた、三人のリュックを背負つた山人夫達を見かけたのだけれど、その後ろ姿が僕には何とも云へずなつかしく見えたのだ。――それよりすこし前のこと、僕が霧の中にちらちらと花のほの見えてゐる馬鈴薯畑を前にした、一面にクロオヴァの茂つ
堀辰雄
翻訳状況
待機中ログイン後に翻訳をリクエストできます。
よくある質問
Yes — completely free. This book is in the public domain, so Pagera offers the full text without payment or account requirement. Pagera is funded by advertising.
無料でご利用いただけます
会員登録なしですぐに読み始められます。さらに多くの書籍と機能は無料会員登録後にご利用いただけます。