牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「ね、お祖母さん――」 半分あまつたれるやうな口調で彼は、もぐ/\云はせながら祖母の炬燵の中へ割込むで行つた。 「厭だよ。お前なんかに入られると寒くつて仕様がありやしない。」 祖母はさう云ひながら、それでも彼の膝のまはりの被着の隙を行儀よく直した。 「ね、お祖母さん、阿父さんは怒つてる?」 「そりやア、怒つてるさ。」 「何と云つて怒つてる?」 「何と云つてるも何もないよ。」 「それでもよ。ほんとに――。余ツ程怒つてる?」 「今度といふ今度は――そりや阿父さんの怒るのが当りまへだ。」 「そりや当りまへさ、そりや解つてゐますよ。」 「そんなら何も聞く事はなからうが。それが生意気といふんだよ。だから……」 「そんなことは聞きたくもない。」 彼は頬ツぺたをやぐらに載せて横を向いた。 「阿父さんは斯う云つてゐたよ。――彼奴は嫁を持つまでは到底なほりつこない人間のさかり……」と云ひかけて祖母は、 「阿父さんの云ひ方も余り乱暴だけれど――」と微かに笑つた。 彼は顔がわけもなくほてつて来るのを覚えた。 「そんなことなら聞き度くないツて云つてるぢやありませんか。止して下さいよ。――もう何にも聞き度くない
牧野信一
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