牧野信一
牧野信一 · 日本語
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牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
途中で考へるから、ともかく銀座の方へ向つて走つて呉れたまへ――僕は、いつにもそんなことはないのだが、たつたひとりで寂しさうに外へ出ると、車に乗つて、そんな風に呟いた。外套の襟に顔を埋めて、うまいものだなあ――と吐息を衝くのであつた。あの人の作品が、年を重ねる度に、一作は一作毎に深い艶を含んで、歴起として来るおもむきなんていふものは、容易に他人の眼にはつき憎い繊細なものとされ、何うかすると、あの人の作品は昔から変りもなく、既にして完成された左ういふものだなどゝ云はれたりするがそれも結構、左う見られるだけだつて結構至極、ゆらゆらと流るゝ隅田川の風情が、うつりゆく四季の眺めをうつして千万無量の飽かれざる景色に相違ないのだが、傑れたる芸術家の進路なんてものが何うして、たゞ流れる水の如く淡々として、たゞ自然のまゝである気づかひが在り得る筈のものではなく、また、在りたしと希つたところで在り得べきものではないのだ。ずつと/\はぢめの頃に溯つて、あれもこれも、あれからこれと、ふら/\と追ひかけて――まつたその頃は、たとへば僕など、文科の学生でありながら文学々生ではなく、小説家といふものは何ういふものか
牧野信一
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