牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ちかごろ或る日、十何年も他所にあづけ放してあるトランクをあけて見ると昔のエハガキブックや本や手帳にまぢって、二十歳前後の写真を二束見つけた。その中に“To Mr. S. Makino. ――From Saburo Okada”と誌された手札型の岡田三郎の半身像と、「屋上」小会紀念とある故片上伸先生をとりまいた一団の学生の写真があった。学生は十四人ならんでゐるが(斯ういふ写真には裏に名前を書いておくべきだと思ったことには――)そのうちに、浜田広介、須崎国武、下村千秋、水谷勝、岡田三郎、神崎勝とまでは指摘出来たがその他の七人は、顔には覚えがあるのだが何うしても名前が浮ばなかった。「屋上」といふのは原稿紙を綴ぢて一冊とする廻覧雑誌の名で、僕は何とかといふ全くはぢめて書いた小品を岡田三郎の手から綴ぢて貰ひ、それぎりだったので準会員といふやうな感じで何時その雑誌が止めになったのかも知らなかったが三郎との交際はそのころからはぢまった。何時どうして変になったのか、別段反感を覚えたり喧嘩をした覚えもなく、彼がフランスへ発つ時には送りにも行き帰朝の時には迎へにも行ってゐるところを見ると、口も利かなくなつ
牧野信一
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