牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「黄金の羽虫、どこから来たの。蜜飲の虫、あらあら、いけないわ。そんなに私の傍へ寄つてはいやよ、日向の雛鳥、あつちへお行きよ。」 レオナさんは緑石の様に輝いた美しい瞳をうつとりとかすめて独言のやうに呟きました。 「まあ、随分酷いわレオナさん。私のことを羽虫だつて、そばへ寄つてはいけない、あつちへお行き、ですつて。いゝわいゝわ、どうせ私が傍に居てはお嫌なんでせうよ。」艶子はレオナさんの今の言葉は自分に向つて云つたのだ、と思ひましたのですつかり怒つてしまひました。それでもレオナさんは素知らぬ風で花を瞶めて居りました。さうして又こんなことを云ひました。 「黄金の羽虫! おや何を探してゐるの。私を花だと思つて。私の唇を蕾だと思つて、あつちへ飛んでおいで、森の中へ、小川の縁へ。菫、蒲公英、桜草、そこには何でも咲てるよ。その中にもぐりこむで酔倒れるまで飲んでおいで。」 艶子はレオナさんが、どうしてそんなことを云ふのか不思議になつて来ましたので、もう怒らうとはせず、レオナさんの肩をたゝいて、「どうなさつたの。貴方一体先程から何を云つてゐらつしやるの。」と尋ねました。するとレオナさんはその時初めて吾に返
牧野信一
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