牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「兄さんはそれで病気なの? 何だか可笑しいわ。まるで病気ぢやないやうだわね。」 「さうね、そんなのなら私達もちよつとでいゝからなつて見たいわね。」 二人の少女は、云ひ合せたやうにホヽヽヽと笑つて私を見あげました。二人とも私の従妹です。名前ですか――名前は遠慮しませう。何故なら私は、正直にこの二人の少女を描写しようと思ひますから。正直に書けば必ず怒られるに相違ありません。怒られたつて怖くもないけれど、泣かれると困りますからね。 「何だ失敬な! 他人の病気のことなんて、解りもしない癖に。」と私は云ひました。 「ホヽヽヽヽ。」とまた二人は笑ひました。返答をしないで笑ふとは更に失敬だ。一体僕はこのホヽヽといふ笑方からして大嫌だ。何がそんなに可笑しいんだらう。さう思つた私は、これぢやとても相手にならないと気付きましたので、砂を払つて立上がり、青々と美しい空を見あげて大きな声で歌をうたひました。 「それ一体、何の歌?」 「いやなドラ声だわね。」 どうも煩さい少女共である。……私も口惜しいから、 「他人の歌をけなす位なら、君達は定めし美しい声だらうね。」と云ふと、 「そりや、兄さんよりはね。」 「そ
牧野信一
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