牧野信一 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
(四月――日) また、眼を醒すと夕方だ。とゞけてある弁当籠を開いてウヰスキーを二三杯飲むと、はつきり眼が醒る。鰯には手が出ない。セロリを噛む。 手紙を書くので明方までかゝつてしまつた、春の晩、灯の下で手紙を書く――これは、いくつになつても余の胸を和やかにさせる、春になると君は手紙を寄す人だ……などゝ云はれたことがある。 (次の日) 眼を醒すと、また夕暮時だ。 机の上に鉛筆の走り書きで、妻の言伝が乗つてゐる。その一節「今Bさん達がお見えになつたので此処に案内して来たのですが、どうしてもあなたは起きません。」 Bの走り書の一節「フクロ!」 Bの妹さんの走り書き「諒闇中だから雪洞はともさないんですつて、夜、来たつて駄目よ、もうそろ/\散りかゝるわ!」 B――「だが、この儘そつと帰つてやらう、夜来るかも知れない。」 Bの妹さん――「あたしは、さよならよ。」 妻――「あまり勉強すると毒よ。」 (その次の日) Bに起される。 「銀座へ行かないか、これから――」 「東京の?」と余は訊ね返した、「いくら急行何とかゞあると云つたつて、厭に東京を近くしたがりアがるな。」 「ぢや、止さう。ぢや撞球屋へ行かな
牧野信一
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