槙本楠郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
にぎやかな電車通の裏に、川に沿つた静かな柳の並木道があります。その最初の石橋を渡ると、すぐ前に白い三階の大きな建物が、青青とした庭木に包まれて聳えてゐます。 五年生の清三は、かんかんてりの真夏の西日を浴びて、元気よく学校から帰つて来て、その石の門をはいると、病院のやうな広い玄関で、同じやうに今学校からかへつたばかりの、六年生の睦子にあひました。 「あら、おかへり。清ちやん、それ、なに。」 睦子は玄関の入口の「あけぼの母子ホーム」といふ大きな看板のかかつてゐる下で、ふちの広い桃色の帽子をぬぎながら、清三が白いハンケチに包んでゐるものを見つめました。 「いいもんだよ、睦子ちやん。あててごらん。」 さういひながら二人は、玄関を奥にはいつて、「受附」といふ札の下つてゐる小さい部屋の窓口をのぞいて、そこのをばさんに「ただいま。」といひました。 「おかへりなさい。とても暑かつたでせう。はい、はい。」 さういつてをばさんは、二人の部屋の合鍵を、別別に出してくれました。清三の鍵には「二十七番」、睦子の鍵には「三十一番」といふ、小さな番号札がついてゐました。 「どうもありがたう。」 鍵を受取ると、二人は
槙本楠郎
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