正宗白鳥 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
この頃は回顧談が流行してゐる。昔の有名人の噂などはことに雜誌の讀者に喜ばれてゐるらしくも思はれる。讀者の喜ぶか喜ばぬかは別として、筆者自身いい氣持で書いてゐるらしい。芥川に關する回顧談、回顧的作品など、私の目に觸れただけでも幾つあつたことか。芥川龍之介といふ大正期の作家が、どれほど傑かつたにしろ、どれほど人間的妙味に富んでゐたにしろ、その噂はもう澤山だと云つた感じがしてゐる。私も幾度か芥川に會つて、その才人的話し振りに接したことを幸福とし、光榮ともしてゐるのであるが、現在の芥川ばやりは、ちよつと合點が行かないのである。私もみんなの仲間に入つて、芥川回顧談を一席打てば打てないこともないけれど、既に時期がおくれてゐるので、それは止めることにして、まだ誰もやらないらしい「編輯者」回顧談に先鞭を着けようとしてゐる。 回顧すると古い事であるが、私自身、編輯者であつたのだ。私は學校を卒業すると、直ぐに早稻田の出版部に奉職した。文科講義録の編纂員となつたのであつた。伊原青々園の『日本演劇史』は、はじめてこの講義録に出ることになつて、私は原稿取りに出掛けてゐた。出版部仕事は興味もなく、私には不適當であ
正宗白鳥
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