マンパウル・トーマス · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
僕は白状する。あの妙な男の話したことは、僕をまるっきり混乱させてしまったのである。だからあの晩僕自身が感動した通り、他人に感動してもらえるように、あの男の話を繰り返すことは、僕には今もってできそうもない気がする。どうもあの話の効果というのは、まったく一面識もない男が、呆れるほど率直に僕に語ってくれた、その率直さのみにかかっているらしい。―― あの見知らぬ男が、サン・マルコの広場で、はじめて僕の目をひいたあの秋の午前から、もう二カ月ばかり経っている。大きな広場には、わずかな人影があちこち動いているだけだったが、そのゆたかな、童話めいた輪郭と金の装飾とを、心ゆくばかり鮮かに、柔かな薄青い空から浮き出させている、あの華麗な素晴らしい建物の前では、かすかな海風の中に、旗がいくつもひるがえっていた。正面の入口の真前には、玉蜀黍を撒いている一人の少女のまわりに、おびただしい鳩の一群が集っていて、同時に新しいのが四方からどんどん飛びつどって来る……それはたとえようもなく明るい晴れがましい美しさの眺めであった。 その時僕はあの男に出会ったのである。こうやって書いているうちにも、あの男の姿は髣髴として眼
マンパウル・トーマス
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