宮沢賢治 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。 十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗つてイーハトヴを発つた人たちが、どんな眼にあつたかきつとどなたも知りたいでせう。これはそのおはなしです。 × ぜんたい十二月の二十六日はイーハトヴはひどい吹雪でした。町の空や通りはまるつきり白だか水色だか変にばさ/\した雪の粉でいつぱい、風はひつきりなしに電線や枯れたポプラを鳴らし、鴉なども半分凍つたやうになつてふら/\と空を流されて行きました。たゞ、まあ、その中から馬そりの鈴のチリンチリン鳴る音が、やつと聞えるのでやつぱり誰か通つてゐるなといふことがわかるのでした。 ところがそんなひどい吹雪でも夜の八時になつて停車場に行つて見ますと暖炉の火は愉快に赤く燃えあがり、ベーリング行の最大急行に乗る人たちはもうその前にまつ黒に立つてゐました。 何せ北極のぢき近くまで行くのですからみんなはすつかり用意してゐました。着物はまるで厚い壁のくらゐ着込み、馬油を塗つた長靴をはきト
宮沢賢治
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