宮沢賢治 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
柳沢 宮沢賢治 林は夜の空気の底のすさまじい藻の群落だ。みんなだまって急いでゐる。早く通り抜けようとしてゐる。 俄に空がはっきり開け星がいっぱい耀めき出した。たゞその空のところどころ中風にでもかかったらしく変に淀んで暗いのは幾片か雲が浮んでゐるのにちがひない。 その静かな微光の下から烈しく犬が啼き出した。 けれども家の前を通るときは犬は裏手の方へ逃げて微かにうなってゐるのだ。 一寸来ない間に社務所の向ひに立派な宿ができた。ラムプが黄いろにとぼってゐる。社務所ではもう戸を閉めた。 (こんや、二時まで泊めて下さい。四人です。たいまつがありますか。わらぢがありますか。それから何かよるのたべものがありますか。ほう、火がよく燃えてるな。そいぢゃ、よござんすか。入りますよ。) (さあ、二時までぐっすりやるんだぜ。ねむらないとあしたつかれるぞ。はてな、となりへ誰か来てゐるな。さうだ、土間に測量の器械なんかが置いてあった。) 青いきらびやかなねむりのもやが早くもぼんやりかゝるのに誰かどしどし梯子をふんでやって来る。隣りの室をどんと明ける。 「やあ旦那さん。ぶん萄酒一杯やりなさい。」 「葡萄酒? 葡萄酒
宮沢賢治
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